◆菜々華

「プレゼント……？　このお店で、わたしに？」

◆大輝

「おお。目が輝いてるね」

　まるで宝石の山を見たかのように、菜々華の瞳はキラキラとしている。

◆大輝

「期待してくれてなんだけど大したものじゃないぞ」

◆菜々華

「母以外の人からプレゼントを貰うなんて生まれて初めてです。何でも嬉しいかも」

　そう言って一層、目を輝かせる菜々華に俺のハートは釘付けだ。

◆菜々華

「そうですね、それこそ道端の石ころでも喜びます」

◆大輝

「い、石ころ？」

◆菜々華

「石ころください」

◆大輝

「さすがに道端の石ころ以上の物は期待してくれてもいいけどな！？」

◆菜々華

「冗談ですよ、えへへ」

　なんだこの屈託のない純粋な笑顔は。

　こんな表情も出来るのか、この人は。

　まずい、予想以上の可愛らしい反応に、ドキドキしてきたぞ……

　俺は照れ隠しのように軽く深呼吸をする。

◆大輝

「次のデートの時に空っぽの部屋を、少しでも満たせるプレゼントを考えとくって約束したからさ」

◆大輝

「子供じゃないって怒られるかもしれないけど、ぬいぐるみなんてどうかなって」

◆菜々華

「ぬいぐるみ！！」

◆大輝

「！？　予想以上に食いついてきた！？」

　菜々華の目のキラキラが更に増した！

　ぬいぐるみのプレゼントでここまで喜ぶ人も珍しいだろうな。

◆菜々華

「ぬいぐるみなんて、持ったことがなくてですね。本当にプレゼントしてくださるのですか？」

◆大輝

「うん。あんまり高いのは金銭的に無理だけど、そこの棚にいっぱいあるし好きなの選んでいいよ」

◆菜々華

「そうですね。えっと、えっと……」

　上目遣いにモジモジしながらそういう菜々華。

　そして珍しく子供みたいな口調。

　俺はもう、あなたを抱きしめたい衝動と戦うのに必死だよ、我が嫁……！

◆大輝

「どうして欲しいのかな？」

◆菜々華

「あ、あのですね、ぬいぐるみは大輝くんに選んで欲しいです」

◆菜々華

「そ、そのほうが、大輝くんの分身みたいに思えそうですから……」

◆大輝

「なんか照れるな。さすが純情乙女先輩だよ、菜々華は……乙女ちっくだ」

◆菜々華

「わたしはですね、大輝くん。初めてのことには弱いのですよ」

◆菜々華

「エッチの時だって……」

◆大輝

「わかったーっ！　今すぐ選ぶから、こっ恥ずかしいことを言うのはやめっ」

◆菜々華

「ふふ。どの子が、うちに来るのか楽しみです」

◆大輝

「……そうだな。この大きめのうさぎさんなんてどうかな」

　抱き枕に丁度良さそうなウサギを手渡すと、菜々華は笑顔で頷き、そのぬいぐるみを抱きしめる。

◆菜々華

「うさぎ……さん？」

◆大輝

「気に入ってくれたみたいだね」

◆菜々華

「はいっ」

　そう素直に笑顔で無邪気に何度も頷く菜々華を見て俺も自然と口角が上がってくる。

◆菜々華

「大輝くんが選んでくれた、ぬいぐるみ。うさぎさん」

　菜々華、ウサギ好きだったのかな？

◆菜々華

「わたしはですね、大輝くん」

　ウサギのぬいぐるみを愛おしそうに見つめながら、菜々華はいつもの言い回しで俺の名前を優しく呼ぶ。

◆大輝

「何かな、お姫様」

◆菜々華

「うさぎさんと似ています」

◆大輝

「うさぎと？　見た目が？　……あっ」

　そう言えば、どこかで聞いたことがある。

　ウサギは寂しがり屋で、寂しいと死んでしまう。そんな話。

◆大輝

「寂しがり屋か……」

◆菜々華

「ええ。だからうさぎさんを選んでくれた。違いますか？」

　それは偶然だけど、確かに菜々華は寂しがり屋でずっと一人の部屋で苦しんできたんだ。

◆大輝

「じゃあ、これで誰も寂しくなくなるね。菜々華も、そのウサギも」

◆菜々華

「そうですね。えへへ」

　この幸せそうな笑顔。壊さないように俺は守りたい。