商店街にあった小さなペットショップで、瀬里香はイナバのエサを買った。
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- ◆大輝
「ウサギのエサってあんなに種類があるんだな。うちじゃ野菜と草ばかり食べさせてたよ」
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- ◆瀬里香
「草食だから……それでも良いと思う。たんぽぽの葉っぱとかも好きみたいだし」
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- ◆大輝
「あー、そういや希里乃がよく摘んでたな」
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瀬里香の荷物持ちを請負って、その隣を歩く。会話は穏やかなまま、のんびりとした時間が過ぎていく。
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- ◆大輝
「そう言えば、イナバは瀬里香の部屋からあんまり出してないよな?」
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居間でくつろいでいるイナバを見るのは、エサを食べている時と、瀬里香がいる時だけだ。
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甘夏や美穂乃姉がイナバを外に連れ出している様子はあまり見たことがない。
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- ◆瀬里香
「うん……家が広いから、迷子になっちゃうの。先輩に見つけてもらった時みたいに……」
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- ◆瀬里香
「お姉ちゃんたちも撫でたいみたいだけど、イナバ、怖がりだからすぐ逃げちゃうし……」
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- ◆大輝
「ふーん、警戒心強いって本当なんだな……」
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イナバの性別は確認してなかったが、あいつ、実はメスなんだろうか?
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甘夏や美穂乃姉の膝の上なんて、俺なら大喜びで飛び乗りそうなもんなのに。
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- ◆瀬里香
「…………」
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唐突に、荷物を抱える肘のあたりを瀬里香がポカッと叩いてくる。
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- ◆大輝
「お、おう? どうしたんだ瀬里香」
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- ◆瀬里香
「……さっき、先輩が考えてたこと、なんとなく分わかった……気がして」
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- ◆大輝
「マジか」
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- ◆瀬里香
「お姉ちゃんたちの膝、柔らかそうって考えてた?」
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……なんてことだ。ほとんど当たってる。
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- ◆瀬里香
「先輩の顔、結構わかりやすい……」
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- ◆大輝
「う、うむ。それは言われるな、わりと」
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なるほど、お互いの距離が近づくというのは、こういう効果もあるわけか。
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- ◆大輝
「まあ、イナバは瀬里香によく懐いてて可愛いよな。また一緒に遊んでもいいか?」
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- ◆瀬里香
「う、うん。もちろん。いつでも来て」
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- ◆大輝
「来てって、瀬里香の部屋に?」
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- ◆瀬里香
「? うん。そうだけど――」
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瀬里香の部屋。つまり女の子の部屋。そう──希里乃以外の女の子の!
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八神家に来てから、俺は多くの未知を経験した。だが未踏の地はさらに存在したのだ。
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瀬里香の部屋。それはきっといかにも清楚な、女の子らしい雰囲気の部屋なんだろう。
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- ◆瀬里香
「…………」
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さんざん瀬里香の部屋に思いを馳せてから、隣を見ると、今度は瀬里香がうつむいていた。
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- ◆瀬里香
「か、片付けておく……ね」
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もじもじと気恥ずかしそうにしている瀬里香。
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- ◆大輝
「おう……」
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これは──うん、多分また、俺の妄想がバレている気がする。