- ◆美穂乃
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「ごめんね……目隠しまでさせちゃって……」
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- ◆大輝
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「い、いいって……けど美穂乃姉、思い切ったことするな」
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美穂乃姉は風呂に一緒に入ろうという提案をしてきたのだった。
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最初は抵抗したが、怖がる美穂乃姉の体も冷えていたので、やむを得ず受け入れることにした。
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もちろん、お互いに体にしっかりとバスタオルは巻いている。
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とはいえ――目隠しと一枚のバスタオル越しには、美穂乃姉の素肌がある。
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それを考えるだけで体が硬直しそうだ。
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- ◆美穂乃
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「大輝くんは女の子とお風呂入ったことない?」
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- ◆大輝
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「あるわけないって……」
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ということは今俺は、人生において初の、女の子とお風呂に入るという経験をしているのか!
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希里乃、お兄ちゃんは思わぬタイミングで大人の階段を上りました……
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- ◆美穂乃
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「そっか……村には女の子っていないんだっけ?」
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- ◆大輝
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「歳が近いのは妹の希里乃くらいだよ。あとはみんな、一回り以上離れてる年上で」
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- ◆美穂乃
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「ふふ、そうよね。お嫁さん探しに来てるんだものね」
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もしかしたら、お互いの緊張をほぐそうとしているのかもしれない。
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いつも通りに整えたような美穂乃姉の笑い声。
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だが、目隠し越しに聞こえるその声音は、ちょっとだけ緊張しているようにも聞こえる。
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- ◆美穂乃
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「……ねえ、大輝くん」
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- ◆大輝
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「うん?」
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- ◆美穂乃
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「昔のこと……何か思い出せそう?」
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- ◆大輝
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「いや……それが具体的にはどうしてか思い出せなくて……」
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- ◆大輝
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「美穂乃姉は八千矛村に来たこと、本当にないのか?」
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- ◆美穂乃
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「わたし? ないと思うけど、甘夏や瀬里香は行ったことあるって言ってるし……」
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- ◆美穂乃
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「それよりお姉ちゃん、聞きたかったことがあるの。聞いてもいい?」
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- ◆大輝
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「あ、ああ。もちろん」
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- ◆美穂乃
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「大輝くん、この前、約束をしたりとか――って言ってたでしょう?」
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- ◆美穂乃
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「その約束って、どんな約束なのかな?」
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そうか、美穂乃姉にはまだ約束の内容、つまり、結婚の約束ということは伝えていなかったんだ。
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- ◆美穂乃
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「あ、もちろん二人の秘密とかなら、教えてくれなくてもいいけど」
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- ◆大輝
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「そんなことはないよ。え、えーっと――」
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その約束に対して、甘夏はロマンチックで素敵、なんて言ってくれた。
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だけど瀬里香は悲しい顔を見せた。自分にはそんな約束なんてできなかったのでは、と。
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- ◆大輝
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「実は、その……嫁にするって約束をしてたらしいんだ」
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- ◆美穂乃
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「えっ!? そ、そんなに大切な約束だったの!?」
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目隠してしていて顔は見えないが、美穂乃姉は驚きの声を出した。
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- ◆大輝
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「やっぱり驚くよな。普通、女の子はそんなこと言われても、その……困っちゃうのかな?」
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約束と言っても、それはお互いに覚えていなければ意味は成さないはずだし。
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- ◆美穂乃
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「うーん……困っちゃう、か……そんなことはないんじゃないかな?」
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- ◆大輝
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「え?」
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- ◆美穂乃
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「だって、そんな小さい頃の約束を思い出して、それをきっかけに恋が始まって……」
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- ◆美穂乃
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「それもきっと、出会いの一つだと思うな、お姉ちゃんは」
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きっかけ、出会いの一つ……