- トキヤ
- 「紗理奈先生……」
- 紗理奈
- 「…………んぅ……」
- 名前を囁いた瞬間、鼻の頭をピンと指で弾かれてしまった。
- あ、あれ? 素直とか思った矢先に、ど、どうしたんだろう。
- トキヤ
- 「せ、先生……?」
- 紗理奈
- 「めっ」
- トキヤ
- 「あ、あれっ!?」
- またもや、鼻をピンと叩かれてしまう。
- え、な、なんでだ!?
- トキヤ
- 「えっと、あの、何かあったんですか?」
- トキヤ
- 「そうやって、急に鼻を叩いたりしてくるなんて……」
- 紗理奈
- 「……あった」
- トキヤ
- 「えっ?」
- ぽつ、と漏らす先生はどこか不機嫌そうな声色だった。
表情は相変わらず動かないままだったけど。
- トキヤ
- 「お、俺が何かしました、か……?」
- 紗理奈
- 「…………いや」
- トキヤ
- 「い、いやって、何が?」
- 紗理奈
- 「……名前……」
- トキヤ
- 「名前……って……」
- あ……
- トキヤ
- 「すいませんでした。えっと、その……紗理奈」
- 紗理奈
- 「これから……」
- トキヤ
- 「は、はい」
- 紗理奈
- 「二人の時、は……」
- トキヤ
- 「……はい」
- 紗理奈
- 「……名前、で呼ばない、と……許さない……」
- 頬をかすかに赤くした先生が、恥ずかしそうにぽつぽつと繰り返す。
- その仕草があまりにも愛らしくて、胸がドキッと跳ね上がった。
- トキヤ
- 「わ、分かりました。これから、先生……」
- 紗理奈
- 「じーっ……」
- トキヤ
- 「じゃなくて、紗理奈と二人の時はちゃんと名前で呼びます」
- 紗理奈
- 「……ん……忘れないでね……」
- トキヤ
- 「はい」
- 俺に身体を預けてもたれかかるようにする紗理奈。
- その目は静かに俺を見つめて、嬉しそうに笑っていた。
- 紗理奈
- 「よく……出来ました……」
- 紗理奈
- 「……ちゅ」
- トキヤ
- 「え、あ……」
- 不意に、頬へと柔らかい感触が押し当てられた。